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大阪簡易裁判所 平成5年(ハ)11626号 判決 1993年12月21日

反訴原告

大橋政重

右訴訟代理人弁護士

大槻和夫

竹下政行

反訴被告

医療法人北錦会

右代表者理事長

矢野昭三

右訴訟代理人弁護士

中藤幸太郎

主文

一  反訴被告は反訴原告に対し、別紙目録(略)記載の看護婦免許証を引き渡せ。

二  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文一項と同旨

第二事案の概要

一  請求原因の要旨

1  反訴原告は、厚生大臣から看護婦免許証(主文掲記)の交付を受けた看護婦である。

2  反訴被告は、大和川病院(<住所略>)及び大阪円生病院(<住所略>)を運営する医療法人である。

3  反訴原告は、平成四年一〇月二一日、反訴被告と、大和川病院で看護婦として就労する旨の労働契約を結び、平成五年六月二日まで同病院に勤務したが、翌三日、退職願いを提出して(そのころ)退職した。

4  反訴原告は、右就労するに際し、反訴被告との約束で同被告に前記免許証を預け入れている。

5  反訴被告は、反訴原告の請求にもかかわらず、右免許証を返還しない。

(以上は争いがない。)

6  右免許証は、労働基準法二三条にいう「金品」に該当するものであり、請求から七日以内に返還すべきものである。

7  よって、所有権に基づき、右免許証の返還を求める。

二  反訴被告の主張

1  反訴被告は、反訴原告の本件就労に際して、同人に対し、契約金名義で金四〇万円を預託した。

2  反訴原告は二年間のパート勤務を約束していたが、中途退職をした。

(以上は争いない。)

3  中途退職の場合、反訴原告は反訴被告に対し、違約金八万円(契約金の二〇パーセント相当額)を支払い、かつ右契約金全額を返還する約束である。

4  したがって、本件免許証の返還と右契約金等の支払は、双務契約である雇用契約の解消にともない同時履行の関係にあるものである。

三  争点

1  本件免許証が労働基準法二三条の「金品」に該当するかどうか

2  同時履行の抗弁の当否

第三争点に対する判断

一  争点1について

労基法二三条は、労働者が退職した場合、雇用主により労働者の足留策に利用されないことなどを図るために、雇用主に(足留めに利用する意図があると否とを問わず)賃金その他労働者の権利に属する金品の早期返還を義務付ける趣旨の規定であると解されている。

そうだとすれば、本件免許証は、それが原告の所有に属することは明らかであり、一方、弁論の全趣旨によれば、反訴被告が本件免許証を預かり保管する趣旨中には、看護婦不足の折から反訴原告の他病院への移籍や兼務をできるだけ防ぐ意図が含まれていると認められるので、右労基法の法意に照らし、同法条にいう「金品」に該当するものと解する。

したがって、反訴被告は反訴原告に対し、同法条により(罰則の適用の有無に関係なく)、返還請求の日から七日以内に早期返還をすべきものであるといえる。

この点に関して、反訴被告は、他病院への就労に免許証原本は不要であるから同法条による早期返還の保護をすべき「品(物品)」に該当せず、また、同条二項の「金品に関して争がある場合」に該当するから早期返還に応ずべき場合に当たらないなどと主張するが、前者については、原本の所持が必要不可欠でないとしても、反訴被告自らが本件免許証原本を預託させていることに鑑みると、右原本の不所持が看護婦としての再就労になんらの影響がないとは言い切れず、同法条の適用を除外すべき合理的な理由とはならないと解され、また後者については、後述するとおり、反訴被告が争いがある理由として主張する同時履行の関係を認めることができないので理由がなく、結局右主張はいずれも採用できない。

二  争点2について

反訴原告に契約金等の返還ないし支払義務があるとしても(その有無は本件本訴事件で係争中である。)、労基法二三条は労働者保護のための特別規定であり、右民法の同時履行の規定の適用を排除するものと解されるので、反訴被告の同時履行の抗弁は採用できない。

これに関する反訴被告の見解(病院経営者と看護婦の労使関係の力の逆転現象による労働者保護規定の解釈適用の制限など)は、反訴被告独自の見解であり、採用しない。

三  よって、反訴原告の本件請求は理由がある。

(裁判官 鍜治勲)

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